SLEのステロイド中止は可能か?
前回は、SLEの治療におけるステロイドの副作用について書きました。近年では世界的に、ステロイドの用量は必要最小限にしようという流れになってきています。そして可能なら中止、としたいところですが、SLE患者さんでステロイドの中止について調べた報告は数が限られています。今回はその中からステロイドの継続と中止を比較している報告をいくつかご紹介したいと思います。
① Can J Kidney Health Dis. 2014;28:30. “SIMPL study”(pubmed ID:25780619)
これは2つしかない「ステロイドを中止するか・継続するかを無作為に2群に割り付けて比較した試験(無作為化比較試験:RCT)」のうちの1つです。が、この試験はより大規模な試験を行うための試験方法を検証することが目的とされており、本文中にも「ステロイドの少量維持療法の効果を検証する目的で行った試験ではない」と書かれているので結果自体はあまり参考にはなりません。
対象:III/IV型の腎炎あり 生検から試験参加までは約1年 ステロイドはプレドニゾロン(PSL)で5-20mg/日
評価:腎病変の再燃または腎外病変の再燃(定義は割愛します)
結果:対象となった15例をステロイド(PSL 7.5mg)継続群:8例とステロイド中止群:7例に割り付けて比較。36カ月後、継続群では4例(50%)、中止群では1例(14%)で再燃を認めた。
私の感想:ステロイドを中止した群の方が再燃が多いという結果で「?」となりますが、症例数も少なく上記の通りこの結果自体は参考にはしない方がよさそうです。
② Clinical Rheumatology 2019;38:1089. (pubmed ID:30523554)
インドからの報告。148例の寛解しているSLE患者さんで、ステロイドを漸減・中止した症例を抽出しステロイドの中止後に再燃があったかどうかを後ろ向きに検証したコホート研究です。
対象:罹病期間 8.7年 52.7%で腎病変(ループス腎炎)あり
評価:再燃(SLEDAIが4以上上昇すること、と定義)
結果:ステロイドを漸減後に中止した148例のうち、31例(20.9%)で再燃が起こった。多変量解析の結果、以下の因子が再燃と関連した。
・2剤目の免疫抑制薬の使用
・罹病期間
・中止までにステロイド治療を行っていた期間
後2者はいずれも長いほど再燃が起こりにくいという結果であった。
私の感想:ステロイド+HCQ(ヒドロシキクロロキン)、あるいはステロイド+免疫抑制薬+HCQで長期間安定していればステロイドを漸減→ 終了しても8割くらいの患者さんでは再燃が起こらない。合点のいく結果かと思います。
③ RMD Open 2019;5:e000916. (pubmed ID:31275608)
②と同じ形式で、後ろ向きコホート研究。病勢の安定している91例のSLE患者さんでステロイドの漸減・中止を試みた。こちらの報告ではまず中止ができたかどうかを検証、次に中止後の再燃があったかどうかを検証している。
対象:罹病期間 13.9年 53.3%で腎病変あり
評価:再燃(SELENA-SLEDAI flare index に基づいて定義)
結果:
・ステロイド中止ができたかどうか→ 77/91例で成功している。中止できた症例と、できなかった症例を比較すると中止成功例では疾患活動性が低く(SLEDAI 1.31 vs 2.57)、完全寛解(DORISの定義)の状態にあった症例が多かった(54.2% vs 21.4%)。
・ステロイド中止後に再燃が起こった症例(18例)と、起こらなかった症例(59例)を比較している。再燃が起こった症例ではSLEDAI > 4だった割合が多く、また最後の再燃からの期間が短かった。
私の感想:離脱できなかった14例は減量中の関節痛と倦怠感が理由だったようで、これはおそらく長期のステロイド投与による副腎不全だったのではないかと思われます。こうなってしまう前にできるだけ早い段階からステロイドは減量したいものです。なるべく病勢を抑えてからの方がステロイドの中止がうまくいくのは、想定通りの結果。最終的に2/3くらいの症例でステロイド中止して再燃なく経過しているので、良い成績かなと思います。統計的に有意ではないようですが、中止後再燃がなかった59例では免疫抑制薬またはBIO(リツキシマブ・ベリムマブ)の併用率が高かったようにみえます。
④ Ann Rheum Dis 2020;79:339. “CORTICOLUP study”(pubmed ID:31852672)
① を除くと現時点では唯一のRCTです。124例の病状が安定しているSLE患者さんを、ステロイド(PSL 5mg/日)を継続する(61例)群と中止する(63例)に無作為に割り付けて再燃がどれだけ起こったかを比較しています。この試験の変わったところは、普通はステロイドは少しずつ減量して中止していくのにいきなり5mgのPSLを中止してしまっている点です。副腎不全にならないよう、20mg/日のヒドロコルチゾンを1カ月間服用しているようですが・・・(副腎不全についてはこちら)。
対象:罹病期間 12.9年 腎炎は47例(38%)で合併 免疫抑制薬は26.6%で併用 ステロイドはPSL 5mg/日
評価:再燃(SELENA-SLEDAI flare index に基づいて定義)
結果:ステロイドを継続した群(赤字)では、中止した群(青字)と比べて有意に再燃が少なかった。
私の感想:この結果から、「少量ステロイドは再燃防止に有効だ!継続した方が良い!」と考えてしまうのはちょっと待てよ、という感想です。まずステロイドを突然中止しているのは再燃しやすくなる一つの要因ではないかと思われますし、実際この点に対してツッコミを入れているレターがあります(pubmed ID:32340975)。また、上の②③の報告では半分程度の患者さんで免疫抑制薬が併用されているのに比べ、この試験では1/4程度でしか併用されていません。この結果からのメッセージは「(免疫抑制薬を使わず)ステロイド(とHCQ)だけで長期間安定しているように見えている患者さんも、実は潜在的に活動性を有している場合がある」ということではないかと思います。実際にこういうことはよく経験します。
全体を通して
② の論文タイトルは“Steroid-free remission in lupus: myth or reality”「SLEでステロイドを中止するのは、神話か現実か?」となっており、「ステロイドの中止なんて、本当にできるの??」というニュアンスを感じますが結果としては半分以上の患者さんでステロイドは中止できています。私が膠原病の専門診療を始めた13, 4年前にはステロイドの中止は正直考えもしませんでしたが、2015年からHCQから使えるようになったこともあって数年前から中止を試みるようになり、うまくいっている方もいらっしゃいます。今回まとめた文献と自身の経験から、冒頭の「SLEのステロイド中止は可能か?」という問いに対しては「十分可能である」というのが答えであると考えています。