ステロイド性骨粗鬆症

ステロイドの副作用はたくさんありますが、その多くは量に比例します。しかし、量が少なくても「プレドニン 5mgでも」気をつける必要がある副作用が2つあります。それはなんでしょうか?

ひとつは、以前すでに書きました「副腎不全」です。ステロイドを長く飲んでいると体がステロイドを作らなくなってしまい、病気自体が落ち着いていてもステロイドを止められなくなってしまうことがあるのでした。もうひとつが「骨粗鬆症」です。骨粗鬆症は加齢によるものが多いですが、ステロイドによる骨粗鬆症は「ステロイド性骨粗鬆症」と呼ばれます。気をつけて対処しないといけない副作用なのですが、誤解をされていることも多く、注意が必要です。後で述べます。

骨粗鬆症になって困るのは、骨折です。ステロイド性骨粗鬆症で一番多いのは、「腰椎(背骨の、腰の部分)の圧迫骨折」です(下図参照)。しりもちをついた時などに起こることもありますが、実は多くの場合は特にきっかけなく起こります。さらには、気づかないうちに折れていることも珍しくありません。これはステロイド性に限らず加齢による骨粗鬆症でも同じことです。「いつのまにか骨折」という言葉もあります。ぜひ検索してみてください。

上の図は、正常な脊椎(背骨)と「圧迫骨折」を起こした脊椎を表したものです(*私は、絵心がありません)。脊椎は椎体と呼ばれる円柱形の骨が椎間板(クッション)を挟んで縦に「だるま落とし」のように積み重なった形をしています。「圧迫骨折」は図のように椎体が縦方向にぺしゃんとつぶれてしまう骨折をいいます。これが複数の場所に起こると背中が丸くなり、身長が縮んでしまいます。ひどい場合は仰向けに寝られなくなることもあり、生活の質が大きく損なわれます。

「骨粗鬆症で骨が折れる」なんて、高齢の方だけにしか起こらないと思っていませんか?ステロイドを大量に、長期間飲んだ方では例え40代の男性でも圧迫骨折を起こしてしまうことがあります。骨折を予防するためには、必要に応じて骨粗鬆症薬をステロイドに併用します。日本骨代謝学会より、「ステロイド性骨粗鬆症の管理と治療ガイドライン:2014年改訂版」が出ております(検索すると無料で読めます)。シンプルでわかりやすく、骨粗鬆症薬の必要性を考える上で非常に良い指針だと思います。

このガイドラインでは、まずステロイドを3カ月以上内服することが決まっていれば骨粗鬆症薬が必要かどうか考えましょうという内容になっています。例えば1カ月で止める予定であれば、不要なわけです。次に、危険因子がどの程度あるかでスコアをつけます。スコアが3点以上あれば、骨粗鬆症薬を併用しましょうということになります。例えば危険因子のうち、ステロイドの用量がプレドニゾロンなら 7.5mg以上であればスコア4点(図中の赤印参照)ですから骨粗鬆症薬が必要ということです。 また、プレドニゾロン 5mg以上7.5mg未満(1点)であっても年齢が50歳以上65歳未満(2点)であれば合計3点で、やはり骨粗鬆症薬が必要です。

ここで問題です。ステロイド性骨粗鬆症について、次のうち誤っているのはどれでしょう?
①「骨折を起こしたら、予防薬を始めればよい」
②「骨密度が正常であれば、予防薬は必要ない」
③「若い人や、男性であれば骨折は起きないから予防薬は必要ない」
④「プレドニン 5mgくらいであれば問題ない」

・・・なんとなくお分かりと思いますが、全部間違いです。まず①ですが、骨折を起こしてからでは明らかに遅いです。ステロイドはプレドニゾロン 2.5〜7.5mgという比較的少量であっても3〜6カ月で骨折リスクを上昇させることが知られています(Osteoporosis Int. 2002;13:777. pubmed ID 12378366)。上記のガイドラインで必要と判断される場合は、ステロイド開始と同時期から骨粗鬆薬を開始します。圧迫骨折は1カ所に起きたら他の骨も骨折一歩手前ということですから続いて2カ所、3カ所と折れます。起こさないように最初から予防することが重要です。

ステロイド性骨粗鬆症の骨折は、骨密度が正常でも起こることが知られています(Arthritis Rheum 2003;48:3224. pubmed ID 14613287)。

③ 年齢が若いほど、特に男性はリスクが低いのは確かです。ただそれでもステロイドの用量が多かったり、何年も継続したりした場合は折れます。30代の男性で大量のステロイドによる治療を過去に2回受けていた方が、椎体が完全に潰れて装具が必要になったこともありました。

④ しつこいですが、骨密度が低かったり年齢が高かったりしたら骨粗鬆症薬が必要です。

では、プレドニゾロン 5mg内服していても例えば50歳未満、既存骨折なし、骨密度正常(腰椎YAM 80%以上)で危険因子がなければ骨粗鬆症薬は必要ないのでしょうか?これは少し意見が分かれる点だとは思いますが、私自身はプレドニゾロン 5mgでも年単位の内服になるのであれば骨粗鬆症薬をお勧めするようにしています。ただそれよりも、極力そのような長期ステロイド服用にならないようにすることが最も重要だと思います。

ステロイドは、1mgでも少なくする。これが最大の骨折予防法です。骨粗鬆症薬については、また日を改めて書きたいと思います。

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ステロイド性骨粗鬆症” に対して3件のコメントがあります。

  1. さくま より:

    貴重な情報どうもありがとうございます。
    1点お聞きしたいです。骨粗鬆症薬の開始基準が年齢に依存しないことは分かりましたが、実際どういう所見が出たら投与開始となるのでしょうか?
    お忙しいところ恐縮ですが、ご返信いただけたら幸いです。

    1. masa_h_elcon より:

      ありがとうございます。ステロイド性の骨粗鬆症においてはプレドニゾロンで7.5mg以上・3カ月間以上使用することが予定される場合は最初から骨粗鬆症薬併用になります。骨密度・年齢・ステロイドの用量からリスクが低い(ガイドライン上はスコア3点未満)と判断される場合は
      最初は骨粗鬆症薬を併用しないことがありますがステロイドの投与が長期化する場合や、骨密度低下を認めるようになったなどリスクが上昇したと考えられる場合は途中から併用することになります。

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