SLE治療におけるステロイドの副作用について

全身性エリテマトーデス(SLE)の治療においてステロイド(グルココルチコイド)はいまだに欠かせないものですが、様々な副作用があることが広く知られています。そのため近年ではステロイドの用量は治療上必要な最小の用量にし、可能な場合は完全に中止することがSLEの治療における目標のひとつとされています。今回はSLE治療におけるステロイドの副作用について、”It hasn’t gone away”「(ステロイドの問題は)まだ終わってはいない」という題の論文を参考にまとめてみました(1)。

ステロイドが登場するまで、SLEは発症10年経つと約半数の方が亡くなってしまう非常に予後の悪い疾患でした。1960年代にステロイドが、1980年代後半からエンドキサンなどの免疫抑制薬が治療に用いられるようになったことでSLEの予後は劇的に改善し、近年では10年生存率が92-95%といわれるまでになっています(2-5)。しかし命に関わることは稀になったものの、SLE患者さんの多くは様々な臓器へのダメージを抱えて過ごしていることが報告されています(6)。近年ではこの「ダメージ」を評価するために SLICC damage index(SDI)という指標がよく用いられるようになりました(7)。SDIは以下のような12のコンポーネントからなっています。

SLICC damage index

12のダメージコンポーネントの中にはSLEという疾患自体による腎臓や肺などへのダメージだけでなく、ステロイドによる影響が強いと考えられるもの(白内障、骨粗鬆症など)、または影響が無視できないと思われるもの(糖尿病や動脈硬化による血管病変など)も含まれています。2000年にはこのSDIを用いて、SLE患者さんではステロイドの投与と白内障や骨粗鬆症による骨折が直接関連していることが報告されました(8)。この報告を皮切りに、たくさんの報告が出ており”It hasn’t gone away”の中ではtable 1にまとめられています。

table 1


そのうちの一つ、カナダからの報告ではSDIをステロイドとの関連を definitely(確実)/possibly(あり得る)/not-at-all(全くない) に分けて評価しています。診断1年以内の患者さんを追跡したコホート研究ですが、追跡開始1年後でも58%がdefinitely/possiblyに当てはまるダメージを持っており、15年目には80%までになっています(9)。長期にステロイドを服用していると、大半の方にステロイド関連のダメージが起こってくるということです。


またステロイドのダメージは、用量に依存することが示されています。診断半年以内のSLE患者さんを調査した研究では、ステロイドの平均投与量が増えるほどダメージが発現しやすくなることが報告されています(10)。

ダメージとステロイドの用量

こうしたことから、ステロイドはSLEの活動性を抑えるのに最小限必要な用量に留めることを目指すべきとされています。

冒頭で書いたとおり、ステロイドはSLEの治療に欠かせないものです。しかし、実はステロイドの量がどのくらいが適切なのかを検証した試験は存在しません。開始・中止のガイドラインも存在しないため、用量含めて個々の患者さんごとに主治医が決定しているのが現状です。「病状が良くなってもステロイドは再燃予防に少量を続けた方が良い」のか、それとも副作用を考慮して「少量であってもステロイドは減量・中止した方が良い」のかはずっと議論がなされています。


私は「ステロイドは可能な限り減量し、できるならば中止した方が良い」という意見です。なぜならステロイドの用量には「これ以下なら安全である」という閾値がないからです。例え少量でも骨粗鬆症は無視できない副作用ですし、副腎不全の問題もあります。一方でステロイドを少量継続することが再発予防になるといえる明確な根拠はありません。病勢が安定している限りは、1mgでも用量を減らすことが未来のダメージを減らすことに繋がると考えています。

【文献】
1. Rheumatology 2017;56:i114.
2. Arthritis Rheum 2006;54:2550.
3. Semin Arthritis Rheum 2012;41:830.
4. Arthritis Rheum 1999;42:46.
5. J Rheum 2008;35:2152.
6. Ann Rheum Dis 2015;74:1706.
7. Arthritis Rheum 1996;39:363.
8. Arthritis Rheum 2000;43:1801.
9. J Rheum 2003;30:1955.
10. J Rheum 2009;36:560.

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